うゐの奥山行(24)―ランドルクにて(後)2009/01/19 11:54

エベレスト・ビール

夕食が終る頃、ロッジの庭で焚き火が始まった。フィンランド人青年2人やロッジの人たちと炎を囲んでなごんでいると、ほろ酔い加減のおじさんが現れ、私の隣に座った。「わしはインドでアーユルベーダやらシアツやらを全部学び、全部免状を持っているのだ」と自慢し、私に「金はいらんから、手を出してごらん」という。片手を差し出すと、てのひらを揉んでくれた。ついでフィンランド人青年の方を向き、「足を出してごらん」という。青年が半信半疑でズボンの裾をあげると、おじさんは彼の足下に座りこみ、ふくらはぎを念入りに揉み始めた。この突然の親切の“落ち”が見えないので、相棒に「どんな感じ?」と聞かれても、青年は不審そうに「まあまあかな」。しばらしてマッサージを終えたおじさんが「酒を1杯おごってくれ」といい出した。うまいなあ。たしかに私には「金はいらん」といったが、彼には何もいっていない。青年が逡巡していると、彼が飲んでいた瓶ビールを指して、「それをちょっとくれればいい」といい、グラスを持ってこさせてビールを注いでもらうと、おいしそうに飲みほした。どこの国でも酒飲みの考えることは同じである。そのうち、私に向って「わしの家には、すばらしい木の花(ウッド・フラワー)があるのだ。明日、見に来なさい。シャンカールの家といえば誰でも知っている」と何度もいい、探しに来た家人に連れられて帰っていった。青年が「本当に行く?」と聞くので、ナイーブなやつだなと思いながら、「考えとく」と応えておいた。あとで聞くと、おじさんは近所に住むプロのマッサージ師だった。

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