うゐの奥山行(15)―デウラリにて(後) ― 2009/01/15 08:07

ガヤガヤと声がしてガイドとポーターが私たちのいる食堂に入ってきた。そのあとからアジア系の中年女性と初老の西洋人が現れた。女性は不機嫌そうに私の前に座りこみ、広口の水筒を出してガイドに水を入れて持ってこさせると、ザックの中から袋を取り出して中身の粉を入れ始めた。ガイドと話す言葉が韓国(朝鮮)語だったので、女性が韓国(朝鮮)系とわかった。初老の男性は彼女の夫で、プリンストンと編みこまれた帽子をかぶっているので、プリンストン大学のOBか関係者なのだろう。ガイドの説明によると、奥さんが高山病になり、急遽ABCから下ってきたのだという。粉の正体は日本人にもらったというポカリスエットで、水筒にポカリ2袋、ビタミンCの粉を2袋入れて、がしゃがしゃと混ぜ、4分の3ほどグビグビ飲むと、残りを夫の方へ「あなたの分」といって差し出した。よほど気分が悪いのか、体全体から不機嫌オーラが発散されていて、食堂の和やかな空気が一変してしまった。名古屋のトレッカー氏が「ダイヤモックスを持ってますけど」と申し出ても返事がないし、ご主人から「何か食べるか?」と尋ねられても、「胃がムカムカしているのに食べられるわけないじゃない!」と噛みつくように応える。恐~い。しばらくして、ご主人が頼んだトマトチーズ・ピザが運ばれてくると、ご主人と一緒に食べ始めた。翌朝、MBCへ向かう道すがら、「あの奥さん、恐かったね」というと、「恐かったですね」とテジくん。「高山病といってたけど、ピザ食べてたから、きっと大丈夫だね」、「ピザ食べてましたね。大丈夫ですね」。みな、黙って同じことを考えていたのだった。