Go Go Everest ! (27)―下山2009/12/12 08:05

病人を運ぶポニー

夜半、2時と6時に目覚める。頭痛が続き、治まる気配がないので、下山を決める。これでチョラ・パスを越えなくてもいいと思うと胸のつかえがとれた感じ。自分で自分の登り嫌いにあきれる。7時に起床。テジくんに下山を伝える。ポーターのおじさんもテジくんも、ずっと行く気だったようで、がっかりした様子。出発の前に、朝食を食べるか食べないかで一悶着。テジくんは「食べないと力が出ませんよ」というが、私は「気持ちが悪くて食べたくない、食べられない」の繰り返し(まるで駄々っ子だ)。妥協してブラック・ティーを頼むと、テジくんが気をきかして砂糖を入れて持ってきたので、思わずムッとする。実は私は甘いものが苦手で、ふだんは全然食べないし、紅茶も砂糖を入れずに飲む方なのだが、高所のトレッキングでは甘い飲み物は欠かせず、今回も飲み物には必ず砂糖を入れて飲むようにしていた。ところが体調が悪くなってみると、好き嫌いが出て、甘いものを口に入れたくなくなってしまったのだ。チョコレートや飴玉は持ってきたのに、なぜおせんべを持って来なかったのだろうと後悔する。最後にもう一度、景色を写真に撮ろうとロッジの外に出てみると、入口にポニーがいた。昨日のように風が強くてヘリが飛べないとき、病人はポニーで下るのだ(ポニーの賃料は1日200ドル、現金払い)。今日も風がとても強く、この分ではコンタクトレンズでは目が開けられないだろうと、眼鏡で行くことにする。7時45分にゴラクシェプを出発。天気は快晴で、日射しが強烈だ。日焼けが心配だったが、歩くだけで精一杯で、日焼け止めを塗り直すことまで気が回らなかった。9時55分、やっとロブチェに着き、ホットレモンを飲む。

Go Go Everest ! (28)―ペリチェへ2009/12/12 10:53

ロブチェ・コーラの谷

初めて高山病になってみると、去年、デウラリで会った韓国人のおばさんがしきりに思い出され、彼女のピリピリした不機嫌ぶりと自分が重なって可笑しくなる。これからは富士登山で気分が悪くなった人にも、やさしく接しられそうな気がする。ロブチェから、しばらく下ると、右側の山肌に筋のように刻まれたゾンラへ向かう道が見えてくるが、今回はこのまま第3の難所のモレーンを下るのだ。行きは苦労したモレーンを30分で下り、トゥクラ(4620M)のヤク・ロッジで休憩。そこで、ナムチェのロッジで一緒だった日本人トレッカー氏に再会する。そう、(本人の知らないうちに)私に呪いの言葉をかけた、あの人である。ナムチェでは1日先行だったが、ディンボチェで高度順応日を設けなかった私達は、今では彼らに2日先行していたのだ。これから登るモレーンを眺めて溜息をついているトレッカー氏を見て、ちょっと意地悪な気持ちになり、「あの登りはきついですよ、あの上にまだ上があるんです」と“呪いの言葉”のリベンジ。でも、がっかり顔のトレッカー氏を見て、ちょっと後悔する(私って、ちっちゃ~い!)。12時すぎにトゥクラを出発。行きは段丘の上だったが、今度は下のロブチェ・コーラの河原に沿った道をペリチェ(4270M)に下るのだが、谷間の道は風が強くて、とても寒く、消耗する。14:00頃、ペリチェ着。1軒のロッジに入って小休止。吐き気が続いていたが、お湯をもらい、C1000ビタミン・ホットレモンを溶いて飲む。

Go Go Everest ! (29)―パンボチェへ2009/12/12 15:48

左は谷底

すっかり疲れ切って、歩く気のなくなった私は、「今日はここで泊まろう」と提案するが、テジくんは、「パンボチェまで下った方がいいです。パンボチェは3900Mですが、ペリチェはまだ4200Mあるし、風が強くて寒いです」と言う。確かにその通りなのだが、昨日の夜からほとんど何も食べていなくて、力が出ないし、歩き方が悪かったせいか、右足の右側面が痛い。よほど大きなモチベーションがなければ腰をあげられそうにない。そのとき、ふと頭に浮かんだのがスプライトである。実は、気分が悪くなってから、微妙にヤクの糞を燃やした臭いのするお湯を体が受けつけなくなり、お茶を飲むのが苦痛になっていた。さっきのホットレモンも吐き気を堪えて飲んだのだった。見ればロッジの商品棚にスプライトの姿はない。“パンボチェのロッジならスプライトが飲める”、そう思ったら、歩けそうな気がしてきた。(私って、ちっちゃ~い!) ところが、いざ歩き出してみると、下るだけと思った道が登っている。ペリチェの村を出てロブチェ・コーラを渡ると、そこからペリチェ・パスまで、左に谷底を見ながら山肌を登るという、高所恐怖症には向かない道だった。わかっていたはずなのに、“上りも下りもない”というテジくんの言葉に、また騙されてしまった。吐き気を堪えながらの、もう歩けない、歩きたくないと何度も思った辛い下りだった。16時25分、やっとの思いでパンボチェのエベレスト・ヴュー・ロッジ着。33315歩だった。着いてみたら、いつの間にか頭痛が消えていた。不思議。

Go Go Everest ! (30)―パンボチェにて2009/12/12 18:55

夕焼けのアマダブラム

たらいにお湯をもらって顔を洗う。ずっと南向きに、太陽に顔をさらしながら下ってきたので、日焼けは覚悟していたが、目尻にくっきり千鳥の足形がついているうえ、まぶたまで焼けていた。そのうえ眉の上まで帽子を被っていたので、顔中がまだらである。部屋でパックをするが、もちろん1度で赤味はとれない。頭痛は消えたものの、吐き気がなかなか治まらないので、吐いて胃の中を空っぽにしようと考え、トイレに行く。ところが、ボーっとしていたせいで、部屋の鍵をトイレの壁の隙間に落としてしまった。テジくんを呼んで取ってもらおうとするが、板と板の間にすっぽり入って、板を剥がさない限り、取れそうもない。困っていると、ロッジのお姉さんが、「これを使って」と、隣室の鍵を差し出した。なんと、私の部屋(4号室)と隣の部屋(3号室)の鍵が同じだったのだ(!)。これで鍵の役割を果たすのだろうか? ま、深く考えないでおこう。胃がすっきりしたので、食堂に行って念願のスプライトを飲む。おいしい。ロッジには他にアメリカ人とドイツ人の混成グループがいた。変わった組合せなので聞いてみると、偶然カトマンズの空港で出会って、一緒にトレッキングに行くことにしたとのこと。年長のアメリカ人が仲間の青年を指して、「俺の年齢の半分。ベトナム戦争を知らない世代だ」と威張っているので、年齢を尋ねると47歳だった。な~んだ、私より若いじゃん。18時30分、トマト&マッシュルームソース・マカロニで夕食。思った通り、私好みの茹ですぎたマカロニがおいしかったが、胃の調子を考えて、半分残しておく。心配したテジくんが何度も薦めてくれるので、はるばるカトマンズから持ってきてくれたリンゴを食べる。